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エリック・サティ「ヴェクサシオン」完全版と新井満「ヴェクサシオン」とAxCx

NAXOS MUSIC LIBRARYで見つけたエリック・サティヴェクサシオン」の完全版について、関連して思いついたことと共にダラダラ書きます。

 

ヴェクサシオン」完全版

ヴェクサシオン」は、「ジムノペディ」「グノシエンヌ」「ジュ・トゥ・ヴ」などで知られる─その洒脱にして奇矯な佇まいからサブカル方面での人気も高い─フランスの作曲家:Erik Satie(1866 - 1925)の手になるピアノ曲で、短く小節感が希薄な不穏なフレーズを840回!繰り返すよう指示されていることが特徴です。

  

完全版は指示通り840回繰り返して演奏されており、

  • 1トラックあたり40数回分入っていておよそ80min
  • それが18トラックで合計約1440min、ちょうど24時間ぐらい

です。

ml.naxos.jp

iTunesでも買えます。

Satie: Complete Vexations 1-840

Satie: Complete Vexations 1-840

  • Jeroen van Veen
  • クラシック
  • ¥2700

 NAXOS MUSIC LIBRARYでは解説ブックレットを入手することができ、演奏者のイェルーン・ファン・フェーン (Jeroen van Veen)自身による「A note from the Artist」に、色々と興味深い事柄が書かれています。 

  • 最初にこの曲を知った時はジョークだと思い、840回も繰り返すなんて想像できなかったが、20年以上かけてミニマリズムに習熟することで、完全版の録音に挑む準備が整った。
  • バナナ、ナッツその他によるスペシャル・ダイエットのおかげで24時間起きていられた。
  • iPadで840回分のコピーした譜面を用意したので演奏時に回数を気にせずに済んだ。
  • 延々繰り返すことでトランス状態に入るかと思っていたがそんなことはなく、代わりに巨大な沈黙─ジョン・ケージ「4'33」の拡大版のような─を感じた。 
  • ヴェクサシオンという作品は、前後に長大な沈黙を配した、3つのムーヴメントからなる曲だと考えるべき: 4’33” – Vexations – 4’33のような。
  • 実際リリース版の音源は演奏前後の沈黙をカットしてある。

パブリックドメインの楽譜もダウンロードできますので挑戦されたい方は是非。

Vexations (Satie, Erik) - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

 

 新井満ヴェクサシオン

サティの「ヴェクサシオン」を題材にとった作品に、新井満の同名の小説があります。何年か前にバズった曲「千の風になって」の日本語詞訳者・作曲者として知られていますが、れっきとした芥川賞作家でもあります。

ヴェクサシオン」は、テレビCFを手掛ける広告屋の男と耳の聞こえないライターの女性とのラブストーリーで、率直に言ってかなりベタかつトレンディでイケ好かない感じのお話しなのですが、「静寂の中から聞こえてくる音楽」みたいなものを描こうとしている点においては、上に挙げた演奏者の感想に通ずるものがあるのかもしれないなぁ、と思いました。

ヴェクサシオン (文春文庫)

ヴェクサシオン (文春文庫)

 

 

ヴェクサシオン」完全版とAxCx

ヴェクサシオン」完全版は、iTunesだと24時間分のアルバムが2700円で売られており、1分あたりおよそ1.9円と、時間単位の価格でみると圧倒的なコスパの良さを誇っています。

反対にコスパの悪い音源を考えたときにまず思い浮かんだのが、みんな大好きアナル・カント。ノイズ・グラインド/グラインド・コアと呼ばれる、要するに異常にうるさくて速くて短い曲を奏するバンドです。

ちなみに、”AxCx”と伏字で記すのが紳士の嗜みだと長年思っていたのですが、iTunesでは”Anal Cunt”と直球で表記されており、聖ジョブスの自由なマインドを感じることができました。

ジャケがイケてるのでセレクトしたこのアルバム(※)だと、42曲入り30分で1500円、1分あたりおよそ50円と、ヴェクサシオンの20倍以上!になっています

(さらに言えば、トラック単位でバラ売りもされており、9秒の曲が200円で買えますが、さすがにこれは意味が分からないです)。

 

まとめ

アルバム1分あたり単価(円)
ヴェクサシオン完全版 1.9
AxCx / 40 More Reasons to Hate Us 50

 

ことほど左様に音楽とは多様なものであり、単価など計ってみたところでその価値はおいそれとは計り知れないものなのであります。

rock 'n' roll!

 

※もっと初期の混沌としていた頃の方がいい、など、各自ご意見はあろうかと思いますが、PANTERAのフィル・アンセルモがゲスト参加しているという聴きどころもあり、私的には好きなアルバムです。