ゲルハルト・リヒター展
気がつけばもう一月ほど前のことになるが、ゲルハルト・リヒター展@東京都近代美術館(竹橋)を訪れた。
アウシュヴィッツの収容所をモチーフとした「ビルケナウ」連作の展示が特に印象的で、「スキージ」と呼ばれる自作のヘラを用いて、塗り重ねることと削り取ることを一体化し、描くことの不確実性のもとに制作された画面は、何か表層・皮膚を剥ぎ取られた、むき出しの現実を見る思いがして切実であった。
また、向かい側の壁面には、それらの絵画を写真で撮ったバージョンが展示されており、素材の凹凸を平面化した画面には、寧ろ整然と見通しが良くなった面も感じられて、「記憶の歴史化」といったことを思わせるもので興味深かった。
余談として、サブカル野郎的には、リヒターの作品で真っ先に思い浮かぶのは、ソニック・ユース「デイドリーム・ネイション」のアルバムジャケットに使われているロウソクの絵であるが、本展覧会にはそのロウソクの絵の展示はなくて残念だった。
数年前にソウルのサムソン美術館 Leeumで(ジャケットに使われた作品そのものではなかったが)連作の一枚を見て感動した覚えがある
(さらなる余談としては「デイドリーム〜」は、世間的にはソニック・ユースのキャリアにおける最高傑作とされているが、私はそこまで好きではなかったりする。その後メジャーに移籍してからの「グー」「ダーティ」「ウォッシング・マシーン」あたりは全部駄作だと思っているので、そこに繋がる安直なインディ・ポップ的な路線がいただけない。「ア・サウザンド・リーヴス」以降はまた面白くなるのだが。オルタナティブの精神が結晶化した「バッド・ムーン・ライジング」こそが最高傑作だと思っている)