デジタル文学館「中島敦の南洋群島」
息子たちに宛てた絵葉書の文面がとても素朴に愛らしく、氏の作品の格調高い漢文調とのギャップに萌えること頻り。
最近再読したマルセル シュウォッブ(極北のような幻想小悦を書いた、私の最も敬愛するフランスの作家)の『少年十字軍』(海外ライブラリー)の訳者あとがきにも、該作家に絡めて中島敦とスティーブンスンのことが触れられてあった。
曰く、「わが国でも、喘息を病んで天折した中島敦は『光と風と夢』という美しい作品をスティーヴンスンに捧げているが、奔放で永遠に若々しい『宝島』の作者は、シュウォッブとか中島敦のような、虚弱で多感な肉体と博識で端正な精神の持主にとって無上の魅力をそなえているらしい。」
ストーリーテリングにステータスを全振りして、ドライブ感のある滅法面白い話を書いたスティーブンスンのような作家に、繊細・緻密で、時に衒学的な作風の中島やシュウォッブがそろって魅力を感じた、というのはとても興味深い話だと思う。
また、中島の傑作のひとつ『文字禍』が、最近刊行された『芥川賞候補傑作選』に収録されている。
この作品は文字と歴史を巡る極めて衒学的かつ幻想的な短編で、例えば「ボルヘスが書いた」と言われても信じてしまいそうな程、洋の東西も時代も超えた恐るべき傑作だと思う(全人類に読んでもらいたい)。