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【書評】中世賤民の宇宙 ──ヨーロッパ原点への旅 (ちくま学芸文庫)/阿部謹也 (著)

2020年に読んだ本で面白かったもの(その3)
 
中世賤民の宇宙 ──ヨーロッパ原点への旅 (ちくま学芸文庫)/阿部謹也 (著) 

 『ハーメルンの笛吹き男』のスマッシュヒットも記憶に新しい、歴史学者阿部謹也先生の著作。

 
中世に至るまでのヨーロッパの宇宙観について、
・互酬関係=モノの贈与によって人と人─或いは人と神々や精霊─とが結ばれた関係
・均質ではなく円環的な時間(死者は彼岸に移行するにすぎず、戻ってくることもある)
・二つの宇宙─柵で区切られた町や村の内部、辛うじて人間が統御可能な小宇宙と、その外側の未知と恐怖に満ちた大宇宙
このような特質をもつものであったとした上で、
これらが、十一、二世紀以降、キリスト教の浸透に伴い、如何にして次のような宇宙観に移行していったかを辿る。
・神を強力な媒体とした新たな人と人との関係
・アダムとイブから最後の審判まで流れる一回性の直線的な時間
神の摂理として定められた一つの宇宙
 
その中で、タイトルにある「賤民」について、元々小宇宙と大宇宙の狭間で、小宇宙の枠をはみ出して大宇宙の要素─水、火、風、性など─に関わる職業に携わっていた人々が、社会がキリスト教化=一元化されていく中で如何に賤視されるに至ったかが考察されている。
 
不衛生極まりなさそうだし、食事もおいしくないだろうしで、中世ヨーロッパにタイムスリップしたいとはあまり思わないが、
極めて強固に均質で機械的な時間の中に埋め込まれている現代の私たちが、そうではない時間の在り方に思いを馳せることにはきっと意味があると思うし、エビデンスを示しながら丁寧に語ることで、そうした時間のリアリティに触れさせてくれるこのような本があることは、とてもありがたいことだと思う。
 
本邦の中世における、同種のテーマを扱ったものとして、
中世の音・近世の音 鐘の音の結ぶ世界 (講談社学術文庫)/笹本 正治
を挙げておきたい。
古来、音によってあの世とこの世を繋ぐものであり、神との契約のために鳴らされていた鐘が、戦国時代以降は人間同士をつなぐ音へと変遷したことが述べられている。