人文知が大事だなぁと思った話
デジタル文学館「中島敦の南洋群島」
中国SFのススメ
先週末に、徒歩圏内(30分)の書店が営業を再開したため、久しぶりにリアル書店で本を買ってきました(ちなみに本自体はオンラインや電子書籍でそこそこ以上に買っています。しかし店舗に行きたい欲求があります)。
マンディアルグ『すべては消えゆく』(祝古典新訳文庫入り!)など四冊を購めた中で、”中国のウィリアム・ギブスン”と評される作家、陳楸帆(チェン チウファン)の長編『荒潮』が特に楽しみです。
気付けば今年に入ってからボチボチ中国SFを読んでいるので、この機会におススメしたいと思います。
ケン・リュウ『紙の動物園』
米国在住の中国人作家の手になる短編集。
ストーリーテリングは抜群に上手いですが、表題作を筆頭に、全編細やかな人情味のある話しで、自分はSFにはオルタナティヴ(beyond 人間)な人間性を求めがちなので、少し甘過ぎると思ったりもしました(好みの問題)。
集中「もののあはれ」は、日本の漫画「ヨコハマ買い出し紀行」に触発されて書かれたものだそうです。
『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』
ケン・リュウは自身が優れた作家であるのみならず、中国SFの英訳者、エヴァンジェリストとしての活躍も目覚ましく、彼の手になるこのアンソロジーは中国SFのショウケースとしてとても素敵な一冊に仕上がっていると思います。
先に挙げた陳楸帆の手になる、バイオネズミ駆除のために招集されたモラトリアム青年兵団の苦闘を描いた『鼠年』、三層に折りたたまれる都市、ネオ北京─ギミックの中に社会の構造そのものを託したと見ることもできるであろう─での階級闘争的な冒険を描いた、郝景芳(ハオ・ジンファン)の表題作が出色の出来で、他に後述の劉慈欣(リウ・ツーシン)『三体』の一部を短編として抜粋した『円』も収められています。
劉慈欣(リウ・ツーシン)『三体』
目下の最注目作。
文化大革命の悲劇を起点に、謎のVRゲーム(ゲームとしての面白さはよく分からないが超キャッチーな世界観のそれ)、異星人とのファーストコンタクトへと、魅力的なギミックを織り交ぜながらインフレしていく物語が最高に楽しい。
しかしこれはまだ三部作の序章に過ぎないとのことで、近日刊行の2作目が待たれます。
ある意味でリアルなサイバーパンク国家とも言えるテクノロジー全盛の中国の現実の元で、しかしフィクションに託して語られているのは寧ろヒューマニズムの在り方ではないか、みたいなアクチュアルな読み方もできそうですが、そういうのは抜きにしてまずはハイクオリティ且つ最新のサイエンスフィクションとして楽しむのが良いかと思います。
番外:ケン・リュウの推薦と、アジアンテイスト繋がりで。
フォンダ リー『翡翠城市』
翡翠を身に着けることで身体能力を拡張する術を身に着けた〈グリーンボーン〉と呼ばれる人々の住む島国、ケコン島を舞台に、島を統治する二つのファミリーの果てなき抗争を描く"SFアジアン・ノワール"。ゴッドファーザー的な仁義なき戦いに能力バトルをプラスした、エンタテインメントとして申し分なく楽しめる作品です。
これも連作の序章とのことで、続刊が鶴首して待たれます。
この本は装丁がとても良くてジャケ買いしてしまいました。
ソウル本屋さん紀行(後半)
前半の続きです。
THANKS BOOKS
弘大(ホンデ)エリアからちょっと外れた合井(ハプチョン)にある素敵セレクト書店。
採光のよいオシャレな店内にオシャレな本がたくさんあって最高です。
カンバンの「Thanks YOU for begin YOU」良いですね。
Access:地下鉄6号線合井(ハプチョン、Hapjeong)駅 5番出口 徒歩5分 (Seoul Station から30分目安)
地図:
永豊文庫(YP Books) COEX MALL店
江南(カンナム)エリアの三成(サムソン)にある「Coex(コエックス)」という巨大ショッピングモール内のYP Booksです。中型の店舗。
K-POPの重要メジャーレーベル、SM TOWNの巨大液晶ビジョンが見ものです。
Access:地下鉄2号線 Samseong (World Trade Center Seoul) 駅徒歩7分 (Seoul Stationから50分目安)
地図:
おまけ:その他のブックスポット
梨泰院エリア、緑莎坪駅から経理団通りに向かう途中にあった古本屋さん。
在韓米軍の駐留地に近い故か、英語の本が多かったです。
「Take Care of Yourself」、本を読むってそういことですよね(或いは買うのも積むのも!)
観光名所的な界隈、仁寺洞(インサドン)にあった古書店。
歴史あるお店だそうですが朝早かったためか残念ながら空いてなさそうでした。
観光名所、景福宮に向かう歩行者天国に開かれていた、青空古本屋さん。絵本など売られていました(景福宮の近くまでバスで行こうとしたら「休日だから」と途中で降ろされたのでしたがおかげで出会えました)。
以上です。ソウル初めてだったのであちこちウロウロ見て回るついでに大型店中心に回った感じでした。
ぜひまた行きたいなーと思っています。
あと文字読めなくても本屋に行くのは楽しいので臆せずどんどん行くのがよいと思います。
ソウル本屋さん紀行(前半)
2019年の5月末から6月の頭にかけて、韓国はソウルを訪れる機会があり、その際に立ち寄った書店をご紹介したいと思います。
#どこに旅行しても本屋さんに行かずにいられない病気なもので。あと旅行3日目ぐらいになると現地の食事を一休みしてケバブ屋に行きたくなりますよねなりませんか?
- はじめに ー 移動の心得
- ARC N BOOK
- 教保文庫(KYOBO Bookstore)(光化門店)
- 永豊文庫(Youngpoong Bookstore/YP Books) 鐘閣 鍾路本店
- BOOK PARK
はじめに ー 移動の心得
ソウルは大都会ですので地下鉄とバスに乗れれば本屋さんに行くのには困りません(まぁタクシーで回ってもいいのですが行動に不釣り合いな感じしませんか?)。
現地に着いたらまずはT-moneyカードを入手しましょう。
空港のコンビニで買うのが手っ取り早いかと思います。
地下鉄
T-moneyカードさえ持っていれば、改札でタッチするだけなので、日本の地下鉄と変わりないです。カードの残額は駅でチャージできますし、チャージ機は日本語・英語に切り替えも可能です。駅名表記やアナウンスは英語もありますので全般そんなに困らないかと思います。
バス
前乗りで後ろから降車。乗る際に運転席そばの端末にT-moneyカードをタッチします。
鉄道に乗り換える場合は、降りる際にも後部ドアの端末にタッチします。バス→鉄道の乗り換え割引があるためで、降りるとき常にタッチしてても問題ないですたぶん。
乗る際の注意事項としては、日本よりは乗りますアピールちゃんとした方がよさそうなのと、停留所にバスが複数台いると離れて止まってそこで乗り降りさせたりするので、番号とかよく見て目当てのバスを見逃さないぞという気持ちを強く持っておいた方がよいです。
降りる際は、ブザーを押すのは日本と同じですが、ハングル/韓国語が分からないと停留所名で判断するのがちょっと厳しいので、Googleマップで現在地を確認して、一つ前の停留所を出たら押す、みたいな感じで自分は乗っていました。
あと、ソウルのバスは専用レーンを走るのでけっこう飛ばします。
乗換案内とかは、自分はGoogleMapで経路調べるので大体いけてました。本当はNaverのアプリとか入れるのが良いかもです。
では本屋に参りましょう。
#何となくのガイドとして、ソウル駅(Seoul Station)からの目安時間を書きましたがGoogleMapの経路を適当にピックアップしただけで実測値ではありませんのでご留意ください。
ARC N BOOK
セレクトショップというかテーマパークのような複合型書店。
書籍以外に雑貨なども多く扱っているほか、カフェやレストランも入居していて、半日とかのんびり過ごすのもありかも。
本のアーチ型トンネルを見るだけでも行く価値はあります。
ソウル駅や明洞からも近いので、観光の合間に寄るのにも適しているかと思います。
Access:2号線 乙支路入口駅 1-1番出口から徒歩2分 (Seoul Station から15分目安)
地図:
ARC.N.BOOK 아크앤북 (@arc.n.book_official) • Instagram photos and videos
教保文庫(KYOBO Bookstore)(光化門店)
ソウル随一の大型書店。かなり広い1フロアに、充実した書籍売り場と、雑貨や文具、家電などのお店が詰まっています。CD屋さんも入っていました。
ガチで本を探すならココじゃないでしょうか。
入口のシャンデリアが豪華で必見です。
Access:地下鉄5号線光化門駅直結 (Seoul Station から20分目安)
地図:
永豊文庫(Youngpoong Bookstore/YP Books) 鐘閣 鍾路本店
教保文庫と並ぶ書店チェーンの本店です。
オーソドックスな大型書店という印象。雑貨や文具も充実していました。
同じビルに無印良品なんかも入っています。
Access:地下鉄1号線鐘閣(Jonggak)駅 5・6番出口 直結
地図:
ちなみに明洞のNOON SQUAREという商業ビル内にもYP Booksの店舗があるとの情報をキャッチして行ってみたのですが、すでに閉店したらしくフロアはもぬけの殻になっておりました。。
BOOK PARK
梨泰院エリアの漢江鎮・BlueSquare内にある超絶ステキ書店。
吹き抜けの巨大書棚も壮観ですし、内装もオシャレで可愛い。
色んな所に座って本を読むスペースが設けられている他、カフェやテラス席もあって、一度長居してみたいなーと思わずにいられない場所でした。
Access: 地下鉄6号線漢江鎮駅直結 (Seoul Stationから30分目安)
地図:
長くなってきたので後半に続きます。
おまけ:
梨泰院エリアで見つけたバクラヴァ(Baklava:トルコ伝統のお菓子)のお店と、可愛いかったのでつい買ってしまった詰め合わせ。持ち歩いたので中身が寄ってしまっています。。シロップ漬けになっていて甘くて美味しかったです。
【書評というほどでもない感想】ホルヘ・ルイス・ボルヘス「夢の本」 (堀内研二 訳)
創作にあっては宇宙的短編「バベルの図書館」を物し、現実においてもアルゼンチン国立図書館の館長を務めた、紛れもない”書物の王”であり、更には「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」 において『あらゆる作品が非時間で無名の唯一の作者の作品である』との極点的な─或いは単に真実かもしれぬ─文学観を述べたボルヘス、その人が稀代のアンソロジストであることは、必然すぎる程の必然だと言わねばなるまい。
ましてや彼の仕事の主要なテーマの一つである「夢」のアンソロジーとあっては…、
古今東西の夢に纏わる─或いは夢そのものの─テキストの織り成す夢幻かつ無限の夢のタペストリ、夢の中で更に夢を見、それから覚めたと思えばまたそれも夢、と、正に”夢中の時間”を約束された一冊である。
取り分け、「コールリッジの夢」。
フビライ汗は夢で見た幻を基に宮殿を建て、数百年の歳月が流れた後に、英国の詩人が夢にフビライの宮殿を見て詩を書く。
このことは『不滅もしくは長命なるものの意図』による、時を跨いだ一続きの計画であり、夢も仕事もまだ終わってはいないのだと…
マルコ・ポーロがフビライ汗に夢幻の如き幾つもの都市を語り聞かせる、イタロ・カルヴィーノの「見えない都市」は、或いはこの夢の系譜に連なるものでもあろうか。
(更に、ハンガリーのポストモダン作家 エステルハージ・ペーテルは、「見えない都市」をパロディ化した同名の短編(「黄金のブダペスト」所収)を著しており、夢のリンクは繋がっていく)。
今一つ印象的なのは、グルーサック「夢うつつ」とパピーニ「病める騎士の最後の訪問」において、何れもシェイクスピア「テンペスト」(「あらし」の邦題もある)の主人公であるプロスペローの台詞『我々は我々の夢と同じ布地でつくられている』が引用されていることで、この言葉はボルヘス晩年の講義録「七つの夜」の「悪夢」の回でボルヘス自身も言及しており、何か、夢と人生を考える上での結節点のようなことばなのだと改めて思った。
更に余談だが、私自身もこの言葉に憑りつかれ気味なのか、「テンペスト」は沙翁劇の中でも特に気になる作品で、新潮文庫(福田 恆存)とちくま文庫(松岡 和子)と白水Uブックス(小田島雄志)の3つの翻訳を読んだことがある。
『夢と同じXX』のXXの部分は、”材木”だったり”布”だったり”糸”だったりするが、原文は"We are such stuff as dreams are made on"らしいので、どれが正解ということはなさそうである。
最後に、ここまでダラダラと取り留めもないことを書いてきたことへのエクスキューズとして、ボルヘスは書物至上主義であったと同時に、読者の役割にも重きを置いていたことを述べておきたい。
それは講義録「語るボルヘス」の「書物」の回において、『書物は読者によってより豊かにされてきたのです』という表現で直接に示されているし、同書中の「探偵小説」では、文学的なジャンルというものは存在せず、探偵小説の読者が生まれたときに初めて探偵小説というジャンルが生まれたのである、と語った後で『読者が一冊の本をひもといた瞬間に、本が誕生するのです。』とまで言い切っている。
短編「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」において、”セルバンテスの原典と完全に同一のテキスト”としてリライトされた”ピエール・メナールの『ドン・キホーテ』”を鮮やかに比較註解してみせたことにも、批評家=読者の果たし得る恐るべき役割と力が示されていると考えられるだろう。
無限の夢のアンソロジーはまた、無限の読みの可能性に開かれているのだ。
【中級者向け】【ちょこっと作例付き】Kindleで買える折り紙の本_一枚折り編
はじめに
気が付けば Kindle で買える折り紙の本(折り図集)がけっこう増えてるなー、と思ったので、私のおススメをご紹介します。
折り図集を手軽に何冊も持ち歩けるのかなり素敵です。海外の本を一瞬でしかも安く買えるのも最高。
折り紙のカテゴリには、大まかに分けて、一枚の紙で折る「一枚折り」と、複数の紙を組み合わせてオブジェや箱を作る「ユニット折り紙」がありますが、この記事では一枚折りの本を取り上げています。ユニット折り紙編も気が向いたらやるかもしれません。
現代の折り紙
「折り紙といえば折り鶴とか手裏剣でしょ」みたいな認識の方もいらっしゃるかと思いますが、現代の折り紙はそれらのトラディショナルな技法や造形から遥かに進歩した、途轍もない境地に達しています。
百聞は一見に如かず、2016年に台湾は台南の奇美博物館(Chimei Museum)で開催された「Origami Universe」展の様子をご覧ください。
当然ながら、展示されているのはかなりエッジーなレベルのものです。
本稿では中級(=ややコンプレックス)かつ定番的なものをご紹介します。単純に自分がその辺のレベルだからです。
おススメ折り図集
数学者でもある”折り紙博士”こと川崎敏和氏の代表作、「川崎ローズ」。折り紙史上の重要なイノベーション。
ねじり折り+斜めグリッドからの自然な曲線を持った仕上がりがまさにマジカルで、折る過程にとても楽しみがあります。
他に川崎氏の著作
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Origami Sculptures (English Edition)
- 作者: John Montroll
- 出版社/メーカー: Antroll Publishing Company
- 発売日: 2018/07/21
- メディア: Kindle版
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Weevil
写実的でありながらどことなくユーモラスで温かみのある動物の造形に特色があります。
他にも恐竜や動物の折り図が出ています。
Prehistoric Origami: Dinosaurs and Other Creatures (English Edition)
- 作者: John Montroll
- 出版社/メーカー: Antroll Publishing Company
- 発売日: 2018/07/26
- メディア: Kindle版
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African Animals in Origami (English Edition)
- 作者: John Montroll
- 出版社/メーカー: Antroll Publishing Company
- 発売日: 2018/07/21
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Origami Insects (Dover Origami Papercraft) (English Edition)
- 作者: Robert J. Lang
- 出版社/メーカー: Dover Publications
- 発売日: 2012/03/27
- メディア: Kindle版
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Orb Weaver
同じくアメリカの巨匠ロバート・J・ラング氏。物理学者でもあります。
ラング氏の他の著作。バイオリニストとかCoolです。
ラング氏とモントロール氏の共著
Origami Sea Life (English Edition)
- 作者: Robert Lang,John Montroll
- 発売日: 2016/09/23
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Hsi Min Tai's Origami Animals (English Edition)
- 作者: Hsi Min Tai
- 出版社/メーカー: Hsi Min Tai
- 発売日: 2017/07/05
- メディア: Kindle版
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猪(Pig) ※表紙の出来上がりとぜんぜんちがうな…
戴錫民 Hsi Min Tai 氏は台湾の折り紙作家。
イイ感じにデフォルメされていて可愛いです。
マスクの折り図集もユニーク
Hsi Min Tai’s Origami Masks of Chinese zodiac animal (English Edition)
- 作者: Hsi Min Tai
- 発売日: 2017/08/07
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以上です。いい時代になりました。
個人的には、永遠のバイブルであるビバ!おりがみシリーズ、
「ビバ!おりがみ」「トップおりがみ」「おりがみ新世紀」「おりがみ新世界」
の電子化を熱望しています。
あとは前川淳氏の「本格折り紙」も。