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中国SFのススメ

先週末に、徒歩圏内(30分)の書店が営業を再開したため、久しぶりにリアル書店で本を買ってきました(ちなみに本自体はオンラインや電子書籍でそこそこ以上に買っています。しかし店舗に行きたい欲求があります)。

 マンディアルグ『すべては消えゆく』(祝古典新訳文庫入り!)など四冊を購めた中で、”中国のウィリアム・ギブスン”と評される作家、陳楸帆(チェン チウファン)の長編『荒潮』が特に楽しみです。

荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

荒潮 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

気付けば今年に入ってからボチボチ中国SFを読んでいるので、この機会におススメしたいと思います。

ケン・リュウ『紙の動物園』 

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 作者:ケン・リュウ
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 米国在住の中国人作家の手になる短編集。
ストーリーテリングは抜群に上手いですが、表題作を筆頭に、全編細やかな人情味のある話しで、自分はSFにはオルタナティヴ(beyond 人間)な人間性を求めがちなので、少し甘過ぎると思ったりもしました(好みの問題)。
集中「もののあはれ」は、日本の漫画「ヨコハマ買い出し紀行」に触発されて書かれたものだそうです。

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

 
ケン・リュウは自身が優れた作家であるのみならず、中国SFの英訳者、エヴァンジェリストとしての活躍も目覚ましく、彼の手になるこのアンソロジーは中国SFのショウケースとしてとても素敵な一冊に仕上がっていると思います。
先に挙げた陳楸帆の手になる、バイオネズミ駆除のために招集されたモラトリアム青年兵団の苦闘を描いた『鼠年』、三層に折りたたまれる都市、ネオ北京─ギミックの中に社会の構造そのものを託したと見ることもできるであろう─での階級闘争的な冒険を描いた、郝景芳(ハオ・ジンファン)の表題作が出色の出来で、他に後述の劉慈欣(リウ・ツーシン)『三体』の一部を短編として抜粋した『円』も収められています。

劉慈欣(リウ・ツーシン)『三体』
 

三体

三体

 

 


目下の最注目作。
文化大革命の悲劇を起点に、謎のVRゲーム(ゲームとしての面白さはよく分からないが超キャッチーな世界観のそれ)、異星人とのファーストコンタクトへと、魅力的なギミックを織り交ぜながらインフレしていく物語が最高に楽しい。
しかしこれはまだ三部作の序章に過ぎないとのことで、近日刊行の2作目が待たれます。

ある意味でリアルなサイバーパンク国家とも言えるテクノロジー全盛の中国の現実の元で、しかしフィクションに託して語られているのは寧ろヒューマニズムの在り方ではないか、みたいなアクチュアルな読み方もできそうですが、そういうのは抜きにしてまずはハイクオリティ且つ最新のサイエンスフィクションとして楽しむのが良いかと思います。

番外:ケン・リュウの推薦と、アジアンテイスト繋がりで。

フォンダ リー『翡翠城市』 

 翡翠を身に着けることで身体能力を拡張する術を身に着けた〈グリーンボーン〉と呼ばれる人々の住む島国、ケコン島を舞台に、島を統治する二つのファミリーの果てなき抗争を描く"SFアジアン・ノワール"。ゴッドファーザー的な仁義なき戦いに能力バトルをプラスした、エンタテインメントとして申し分なく楽しめる作品です。
これも連作の序章とのことで、続刊が鶴首して待たれます。
この本は装丁がとても良くてジャケ買いしてしまいました。