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昭和13年刊行の火野葦平「糞尿譚」が歯抜けだった話し

 Kindle Unlimitedで火野葦平の「糞尿譚」を読んだところ、文章が歯抜けになっていましたというお話し。

糞尿譚 [他四篇]

糞尿譚 [他四篇]

 

 「糞尿譚」は昭和12年の第6回芥川賞受賞作で、作者が日中戦争で従軍中であったために、小林秀雄が戦地に赴いて受賞の旨を伝達したという逸話があるそうです。

汲み取り事業に奮闘する男が、地元の政治の中でうまく立ち回れず不遇をかこつ、その鬱屈と憤りが、糞尿のパワーを持ってして幾分の可笑しさとともに噴出する、スカトロジア文学(おまけ参照)の傑作でした。

 

さて本書は受賞の翌年、昭和13年に小山書店から刊行されたもののようですが、読んでいると結構歯抜けになっている個所があります。

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82~83ページなどはこのように文脈で補えないレベルで抜けており、さすがに気になって青空文庫で補完する羽目になりました。

 

火野葦平 糞尿譚青空文庫

女のある家に赤い紙が落ちていたり、赤く染っていたりするのは当然のことですが、よく便所の中にサックててあるところがあります

 :

また汲取りに行くと、丁度、誰かが用便中で、空気抜きに下の方に硝子戸があったりするようなところで、戸があいて居って白い女の足が見えたり、と、酔いの廻った彦太郎がべらべら喋舌りつづけるのを、阿部がとって、わあ、これは聞き捨てならぬぞ、痴漢ちかん小森彦太郎便所を覗くの図か

別に特別に覗くわけではないのですが、偶然そういう場合に出合って眼に入るわけです、その時は夕暮れ近くなので薄暗かったのですが、しゃあという音がし、 じゃぼじゃぼとこぼれる音がどうも小便の音と違うので、不思議に思って見ると、ホースの先が見え、水道の水をどんどん出して、しきりにあそこを洗っている のです、私は、おどろきましたな。ぼんやりしていると、しばらく叮嚀に洗ってから

 赤字部分が歯抜けになっていた個所です。

現代の基準ではどうということもない記述に見えます。

おそらく戦前の政府による検閲で、削除処分というやつだと思われるのですが、受賞作の出版がこれでは作者も辛かったのではと思いました。

 

Amazon以外でも、こちらで無償で閲覧可能です。

国立国会図書館デジタルコレクション - 糞尿譚 : [他四篇]

※画像は下記のポリシーに従って、「インターネット公開(保護期間満了)」となっているため転載可能と判断して載せています。

サイトポリシー|国立国会図書館―National Diet Library

※幾分センシティブな話題な気もしますが私はメロスばりに政治の分からないノンポリゆるふわ本好きですのでノークレームでお願いします。

 

おまけ

 

ウィタ・フンニョアリス

ウィタ・フンニョアリス

 

 安岡章太郎の偉業。古今東西糞尿アンソロジー。

 

スカトロジア―糞尿譚 (福武文庫)

スカトロジア―糞尿譚 (福武文庫)

 

 ウンチク満載のクソリアリズムエッセイ。