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【書評】 キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

キーボード配列QWERTYの謎

 

 

初期のタイプライターからコンピュータのキーボードまで,実に140年余りにわたる
キーボード配列の歴史を,膨大な資料から紐解いた労作.

 

経済学において,QWERTY配列の普及は,「経路依存性」の代表的な例として挙げられますが,その際に,QWERTYが必ずしも優れた規格ではなかったことの説明として屡々言われる「QWERTY配列は,タイプライターの印字バーが絡まないように意図的に打ちづらく配置されたものである」との説は,まったくのデタラメであることが主張されていて,元々,DVORAK配列の発案者である,オーガスト・ドボラック氏が,QWERTY批判として唱えた怪しげな説だったのが(一種のFUDのようにも思えます),「経路依存性」「市場の失敗」のストーリーを探していた経済学者に,都合よく採用された,という,謂わば「負の連鎖」が起きたことが分かります.

 

そういった,「都市伝説」を打破する試みもさることながら,キーボードの技術史としても文句なしに面白く,様々なタイプライターの図や,当時の新聞広告などの,豊富な図版を眺めているだけでも,十分に楽しめます(かのトーマス・アルバ・エジソンもチョイ役で出てきます).

 

ここからは,あまりロジカルな反証とはなり得ない,私見ですが,
QWERTY配列が意図的に打ちづらく配置されたわけではないからといって,DVORAK配列の良さが否定されるものでもないと思います.
(恥ずかしながら,私も,DVORAK配列の習得を思い立った頃には,「QWERTY=わざと打ちづらく…」説を信じていましたが…)

打鍵速度自体は,QWERTYと比べて数パーセントの向上が見られる程度だそうですが,
「左右交互にテンポよく打てる」,「(特に左手において)ホームポジションからの指の移動が明らかに少ない」といった面での優秀さは,間違いなくあるように思います.

但し,日本語(ローマ字)入力時の問題があって,DVORAKは,そのまま(配列を変えただけで,今まで通りにローマ字を打つ)だと,決してローマ字入力に向いているとは言えませんが,DVORAK JPという入力方式を使用することで,かなり改善されます.
ローカル・ルール過ぎるだろう,と言われると返す言葉もありませんが.

 

などと,くだくだ語りつつ,じゃあ,数パーセントの速度向上と,打鍵時の(少しの)快感のために,労力を払ってDVORAKへ移行することをお薦めするか,と聞かれれば,答えは即決でノーです.

限りある人生の時間はもっと有意義なことに使いましょう.
入力インタフェースに凝る奴はただの変態です.

 

#現存しないブログから再録